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【公権力による肖像権侵害】
〔1〕最高裁判決・京都府学連事件・昭和44年12月
この最高裁判決では、憲法13条は「国民の私生活上の自由が警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定している」、「何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」として、警察官による写真撮影が「許容される限度」を、@「現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合」であって、A「しかも証拠保全の必要性および緊急性があり」、B「かつその撮影が
1般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行なわれるとき」と厳密に規定しました。警察官による写真撮影には令状主義の適用があることを前提として、その例外を示した判決です。
〔2〕東京高裁判決・山谷事件・昭和63年4月
下級審の判例ですが、この高裁判決は、撮影が許容される要件について、@「当該現場において犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合」であり、A「あらかじめ証拠保全の手段、方法をとっておく必要性及び緊急性があり」、B「その撮影、録画が社会通念に照らして相当と認められる方法でもって行われるとき」には「現に犯罪が行われる時点以前から犯罪の発生が予測される場所を継続的、自動的に撮影、録画することも許される」としました。右の最高裁判決の「現行犯性の要件」を「当該現場において犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められる場合」という限度で緩和しているものです。
〔3〕東京地裁判決・平成1年3月
同じく下級審の判例ですが、警察官が犯行目撃者等に示して犯人を特定するために被疑者の承諾なく写真撮影を行い、その写真を添付した供述調書を作成した事案について、最高裁判決が令状主義の例外として許容されるための要件であるとした「現行犯性の要件」はなくても、「その事案が重大であって、被撮影者がその犯罪を行なったことを疑わせる相当な理由のある者に限定される場合で、写真撮影以外の方法では捜査の目的を達することができず、証拠保全の必要性、緊急性があり、かつ、その撮影が相当な方法をもって行なわれているときには、適法な捜査として許される」とした判例もあります。同判決も、この限度ではありますが、最高裁判決の要件を緩和しているものといえます。
〔4〕大阪地裁判決・西成監視用テレビカメラ撤去等請求事件・平成6年4月
公権力による犯罪予防目的のテレビカメラによる録画を伴わない監視行為を一定の場合には許容されるとしました。しかし「公権力がテレビカメラによる録画をすること」は、さきの最高裁判決にのっとって「憲法
13条の趣旨に反し許されない」、「犯罪予防目的での録画は許されない」としました。なお、同事件については最高裁まで争われ、最高裁で確定しています。
〔5〕東京地裁判決・Nシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)訴訟・平成13年2月
現行のNシステムの違法性は認めませんでしたが、今後、Nシステムが網の目のように張り巡らされ、人々の行動を撮影するならば、「国民の行動に対する監視の問題すら生じ得る」としました。
〔6〕東京高裁判決・公安調査庁職員による監視・平成16年2月
この判決は、写真撮影の判例ではありませんが、公安調査庁が、元職員の動向を把握するために暗視カメラで元職員宅を監視し、外出時に尾行するなどしたことは、プライバシーを侵害する違法なものであるとしたものです。
〔7〕金沢地裁判決・住基ネット違憲判決・平成17年5月
公権力によるプライバシー侵害の問題に関する判例としては、住基ネットについての金沢地裁の判決があります。住基ネットでの個人情報の管理は公権力による住民監視といえますが、同判決は、「住民票コードをマスターキーとして名寄せがなされると…住民個々人が行政機関の前で丸裸にされるが如き状態にな」り、「住民においてそのような事態が生ずる具体的危険があると認識すれば、住民
一人一人に萎縮効果が働き、個人の人格的自律が脅かされる」としました。
【私人による肖像権侵害】
さきの最高裁判決は、私人による相手方の承諾のない写真撮影の適法性については触れていません。しかし、私人による写真撮影の要件について、東京高裁判決(昭和
45年10月)・札幌高裁判決(昭和52年2月)・福岡高裁宮崎支部判決(昭和55年5月)は、さきの最高裁判決の基準に拠っています。もっとも、その後の判例の中には、最高裁判例の要件を緩和するものもあります。
【討論】
―最高裁判例に照らしても違法な警察の監視カメラ―
【清水雅彦さん(明治大学講師)】公安警察による写真撮影が裁判になったことはあるんですか。
【永見さん】幾つかあるようです。私が代理人になった裁判もあります。同事件では、大阪地裁、大阪高裁は、集会が行われる会場の前で警察官が参加者を写真撮影したのは、「現行犯性の要件」もなく、犯罪がおきる高度の蓋然性という要件もない違法な撮影であるとして、損害賠償を認め、確定しています。
【田島泰彦さん(上智大学教授)】普通のカメラと監視カメラとは違います。記録することができる監視カメラは権利侵害性が高いわけですから、最高裁判決の基準を監視カメラについてもっと厳しく厳格に適用するという主張が出てきても当然のような気がしますが、あとのいろいろな判決はそうなっていない。少なくとも警察がつけるカメラについては、最高裁判決の理屈からいうと、やはり許されない。
―公権力が民間の監視カメラ設置を促進している―
【武藤糾明さん(弁護士)】警察もかなり最高裁判例を意識しています。緊急通報システムが付いているスーパー防犯灯は、判例をかなり意識して設置されています。警察が監視カメラの設置を商店街に要請し、商店街は録画映像を警察に渡す。そうなると警察が撮影しているのとどこが違うのでしょうか。民間を利用してワンクッションおいたらお金もかかりません。私人だから、公人だから、と単純には区別できない状況にあります。
【清水さん】コンビニとか銀行には警察が実際にはカメラ設置の基準をつくって指導したり、生活安全条例ができれば条例によって自治体等がカメラの設置を指導します。純粋な私人の問題ではなくなってしまっています。
【原田(事務局)】今、政府が交通機関に「テロ対策」として監視カメラを増設せよ、録画映像を提供せよ、と指導しています。これは形式的には私人による撮影ですが、実質上は公権力が民間をつかって監視カメラを設置していると言えますね。
【田島さん】警察が監視カメラをつけるとしても、具体的な権限も、それを委ねる法律も全然ありません。法的根拠が何もないにもかかわらず、どうして許容されるのか。事実行為だから強制力にあたらないといわれるが、監視カメラで撮影されただけでプライバシーの権利は侵害されます。さらに映像を記録し保管して利用する。警察は監視カメラ設置の根拠に
一般的な警察法とか警察官職務執行法をもちだしますが、このことはむしろ監視カメラ設置の個別法がないことを示しています。
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