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■監視カメラ規制の試み(二)
――福岡県弁護士会の試み
福岡県弁護士会の弁護士の皆さんが監視カメラ問題で新しい試みを始めようと考えたのは、有名な繁華街の中洲に監視カメラを約20台設置しようという動きが起こったからでした。
普通の人たちが自由に往来できる繁華街に勝手に監視カメラをつけられて運用されてしまっていいのか、と疑問をもったのです。
そして、福岡県弁護士会の人権擁護委員会の中に監視カメラの問題をきちんと検討する小委員会を正式に設置することになりました。10月29日には、九弁連がシンポジウムを開いて、監視カメラ問題も検討するそうです。
◆杉並方式への批判◆
福岡の弁護士会の人たちが主張する基本的なトーンは、まず第一に、「杉並区の条例は、防犯カメラの設置自体を禁止する規定やその基準を定めておらず不十分というべきである」ということです。監視カメラの設置を逆に応援する、法律で認めてしまうようなことになってしまうのではないか、と杉並区の条例の問題点を指摘しているわけです。
こうした主張は、最高裁が1969年に示した「京都府学連事件」の判決で、いわゆる肖像権が認められたことに依拠しています。人はみだりに容貌や姿態を撮影されない自由をもっている。だから、警察官が正当な理由もないのに個人の容貌を撮影するのは憲法違反であって許されない。撮影が許されるのは、犯罪との関連性が明確に確認できる場合でなければならない、という判決です。
もう一つは、1989年1月に、現役の裁判官が大阪刑事実務研究会という集まりをつくって、「刑事公判の諸問題」という論文を『判例タイムズ』に載せました。
「被疑者の承諾を欠く写真の証拠能力」という項目の中で防犯カメラについて二つの場合を検討しています。
@ATMに設置されている防犯カメラは強盗事件の発生に対処するという目的があり、利用者自身もそうした危険から自分を守るということを求めている。その意味で肖像権を放棄していると考えてよいのではないか。
Aところが、スーパーマーケットの万引防止監視カメラは、これは明らかに本人の承諾、肖像権の放棄を前提としているとは考えられないような形になっているから、許されない、という意見が述べられています。
◆公共の場所での設置は原則禁止◆
福岡県弁護士会の皆さんの基本的な考えは、「公共的な場面で少なくとも犯罪との関連性も立証されていないままに、通りを歩く人を撮り続ける監視カメラは許されるはずがない」、いいかえると「公共の場での監視カメラは原則認めない」というものです。
ただし、例外的に許容される場合があることまでは否定しません。例外には、犯罪との関連性について、裁判官が審理して令状で認める場合や、審議会など第三者的な機関の了解が得られた場合などです。例外は認めるけれども、一般的な監視カメラは、特に公共の場ではダメだという内容の規制が考えられています。
もしも、こうした中味で条例なり法律の案が提示されていけば、かなり重要な役割を果たす規制提案になりうると思います。
■監視カメラ規制への視点
(1)監視カメラ問題を考えるときに、住基ネットや生活安全条例との関わりや、政府の軍事的な指向など、日本が監視社会化していく全体的な状況とあわせて分析を深めるべきです。
普通の人の普通の行動が日夜カメラに撮られ続けている。犯罪に関連する映像・場面など限りなくゼロに近い。しかも、他のさまざまな監視的な装置、住基ネットも入りますし顔認識装置などと連動されて個人の行動も特定できるわけです。今や街角の無数のカメラ群は、たんなる防犯という枠を超えた役割を果たしているのです。カメラだけの問題をポツンと考えるだけでは、監視カメラの本質的な役割を把握できません。
(2)運用実態についてきちんと情報が開示され公開されなければいけません。どこに・どのくらい設置されていて、どのように管理運用され、とりわけ警察への提供はどのような形でなされているのか。あるいは、その映像の保存はどのようになされているのか、こういうことがきちんと公表されなければいけません。
(3)以上のような基本的な問題を十分検討して、そのうえで、「公共的な空間で原則的に監視カメラをつけるのは禁止」ということを明確にすることが大事だと思います。
ただ、むずかしいのは、私的な空間での規制をどのように考えるのかということです。これはやはり、公共空間とは別な理屈がたてられなければいけません。しかし、コンビニなどについているカメラはスーパーマーケットの素朴な万引対策用のカメラと全然違います。セブン−イレブンでは全店にドーム型カメラが設置されていて、オンラインで警備会社につながっています。警察との関係も、管理の実態もよくわかりません。これでは、私的な空間といっても店の裁量にまかせてしまっていいのかという議論が必要です。
また、現在の監視カメラは、杉並の例外を除いて法的な根拠を欠く違法なものといえます。だから、例えば警視庁のカメラを「違法だから撤去せよ」という訴訟をおこして、「明確な根拠がないのに普通の市民をひたすら撮るということがまかり通っていいのか」と問題提起することも必要ではないかと思います。
■コンビニカメラ裁判の判決について
名古屋地裁で、民間設置の監視カメラについての判決が7月16日にでています。
〔ホテルのチェックインをペンネームでおこなったことを理由にして逮捕された組合の活動家が、当該ホテルのそばのコンビニで 買い物をした際に監視カメラに写されていて、この映像記録が「捜査用」として警察に提供されていた。いわゆる別件逮捕の類だ ったことから不起訴となった後に、活動家の男性が、コンビニにたいして、自分の映像を自分に無断で警察に提供したことはプライ バシー侵害だとして損害賠償を求めた事件。〕
この裁判の判決は、結論からいうと撮影・録画したことも、警察に録画テープを提出したことも適法としています。
判決の最初のほうで「肖像権という大事な権利に関わる」と言っているけれども、そういう権利も一定の制限に服さざるをえない、とくに商店においては、商店の経営者がどのような措置(カメラの設置・録画など)をとるかについて広範な裁量権がある、と判断しています。「防犯等の必要性」を一方的に強調するだけで、普通の市民が自分の肖像を無断で撮影されることのないようにという具体的な検討は一切ありません。
警察への提供についても、捜査の対象になっている犯罪とコンビニで撮られた映像を提供することとの関連性について全く議論していない。犯罪事実とは無関係であってもカメラで撮ってよい、映像を警察に提供してよい、という恐ろしい判決です。設置・撮影についても、テープの利用についても、法的なチェックをほとんどしない、丸ごと認めるという判決です。まさに監視カメラを法的にコントロールしようという方向とは全く反対の、それを正面から否定する判断だと思います。
―― 質疑・討論 ――
(会場から) コンビニカメラ裁判の判決で、唯一良い点は、公共の空間だけでなく、商店の中でも肖像権を認めていることでし ょうか?
(田島さん) 個人の肖像権を私人相互の間でも保障されるべきであると明示した判断はこれまでもなかったわけではない。しかも今回の判決は、権利があるとは言うけれども、結局、商店主の大幅な裁量権を認めている。あまり評価できません。
(共同通信・阿部さん) 監視カメラは、住民・国民レベルでけっこう受け入れられている。これはなぜでしょうか?
(会場から) 防犯のためになると思わされている。実際には犯罪が減るわけでもないのに。
(田島さん) 以前、セブン−イレブンに質問状を出して警察への情報提供の実態などを聞いたが、きちんと答えていない。警察の中でも限られた人しか知らないはずだ。「市民が監視カメラを受け入れている」のは、本当の実態を知らない、知らされていないということが大きいと思います。
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