更新:2005年3月24日(木) 10:30 (日本時間)
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「NO!監視」ニュース 【第10号】 2005-03-02

   ・監視カメラ規制を考える――05年1月11日第4回研究会報告
  ・全国で増えつづける商店街の監視カメラの実態
  ・立命館大生が歌舞伎町をフィールドワーク
     

  監視カメラ規制を考える――05年1月11日第4回研究会報告
 
 Nシステム訴訟が示したもの 人権への重大な脅威    


 
1月11日、第4回の「監視カメラ規制を考える」研究会を開きました。今回は、「Nシステム訴訟」をテーマに、同訴訟の原告で代理人でもある弁護士の櫻井光政さんを講師としてお招きしました。
 櫻井さんは、Nシステムに関わった自らの体験を交えて、「Nシステム訴訟」の争点と判決、そして訴訟が照らしだしたNシステム(以下、「N」と表記)の問題性を明らかにしました。

 

公権力による国民移動の監視を告発     

      弁護士 櫻井光政さん

 

 

 訟――3つの争点
 
「Nシステム訴訟」は、「プライバシー権の侵害」を損害賠償請求の根拠にしています。
3つの要素で構成しました。

 @肖像権の侵害
 勝手に画像を撮ることは肖像権の侵害である。
 A自由に移動する権利の侵害

 私たちは好きなときに好きなところに行けるはずである。それがカメラで監視されることによって移動の自由が奪われる。
 
B自己情報コントロール権の侵害
 
人はその人に関する情報についてどの程度の範囲で他人に明らかにするかを自ら選択して決定する主体になりうるはずだ、という考え方です。
 意識したのは、プライバシーという考え方が、変容してきているということです。従来は、「放っておいてもらう権利」=私生活の平穏、ようするに干渉されない権利という、やや消極的な捉え方がされていました。ところが、高度情報化社会では、すべての情報を有機的に関連づけ、個人の趣味や嗜好から、さらに思想までもがわかるようになる。個人データの巨大なデータベースが、民間部門にそして公権力の機関に着実に構築されつつあるのではないか。このことは、人権に対する重大な脅威です。このようなアピールを、訴訟を通じておこないたいということが、私たちの問題意識でした。

人権感覚の欠如した国の反論
 最初、国はまともな答弁をしませんでした。
Nが存在するかどうかということもあきらかにできない、という不誠実な対応でした。
 
国の主張――〈肖像権について〉
撮影しても問題はない。車両のナンバーを記録するためだけに撮影しているので、撮影した画像は保存していない。仮に乗員の肖像が写っていたとしても、保存されない。だから、肖像権の侵害はない、というわけです。
 
〈自由に移動する権利について〉
 
こういう権利ないし自由が、法的に存在するかどうかについては、たぶんに疑問がある。仮に権利があるとしても、写真を撮られてもどこにでも行けるのだから、移動する権利は侵害していません、というわけです。
 
〈自己情報コントロール権について〉
 
この権利は法的に認められるものではない。そもそもナンバーというのは、見られることが前提のもので、それが撮影されたり記録されたりすることがプライバシーの侵害になるわけがない、という立論でした。

 苦労した立証
 
画像を撮影して保存していることをどうしたら原告側が立証できるか。ここが、非常に難しいところでした。そもそも、Nの設計はまったく秘匿されている。情報はすべて国の側にある。だから、原告側は、状況証拠から迫っていくしかありませんでした。
 1つは、Nの端末が年を追うごとに進化してきていることに注目しました。最初の型のNは、車が走ってくるとセンサーが感知してパチッと車の前面だけを写すものだった。それが、第二世代、第三世代となっていくと、多くの機種が、車全体を覆うようなかたちで広い範囲にストロボライトをあてるようになった。それも常時、道路を照らし続けている。運転席の中もバッチリ撮れるようになっている。Nと同じ視点から赤外線ビデオカメラで撮影する実験を行ってみたら、実際に運転している人の顔の識別ができたのです。このビデオを証拠として提出しました。
 もしも、警察がナンバーの情報だけ欲しいというなら、技術が進歩すればするほど、ナンバープレートにターゲットは絞られていくはずです。しかし進化するにしたがって車の全体を写すようになっているのは、とりもなおさず運転手と同乗者の肖像を狙っているとしか思えません。
 もう1点、第二世代が普及し始めた頃から、自動車窃盗犯の検挙に異変が生じたのです。もともと、自動車窃盗犯の検挙の道具としては、たいした威力を発揮していないのがNでした。第一世代の頃までは、検挙された自動車泥棒が盗んだとされる車の台数は1人あたり2台が平均だった。それがある時から3台平均になった。ある時から泥棒の方が盗む台数を増やしたということではない。捜査する側が「これもお前がやったのだろう」と言えるようになった、ということなのです。これは当然にも、運転手の画像を撮っているからではないかと推測する有力な根拠になります。
 画像の精度の問題ですが、三菱が次のような特許を出した。離れたA地点とB地点を撮影して、A地点からB地点まで要した時間と距離を測ってスピード違反を割りだすという特許です。この特許の出願書類の中に、ナンバーだけではなく、「顔もバッチリ識別できますよ」と書いてあります。
 このような速度超過取締機械の特許に明らかなように、乗員の顔の識別という点ではすでにほぼ技術が完成している。同じメーカーがNを作っているわけですから、Nだけがあえて顔を撮影して保存しない、と考える方がオメデタすぎる。
 原告は、以上のように主張しました。しかし、被告側は、それは所詮、推測・憶測の域をでないという。
 これは、訴訟法上、証拠の開示をどれだけ認めるか、立証責任を誰にどう負わすかということにかかわる問題です。情報が極端に国の方に偏っている場合、何らかの疑わしい状況があるのなら、国の保有する情報をオープンにさせて公平な判断をすべきではないかと思うのです。でも、裁判所はそこまで判断しませんでした。

 憲法判断を回避した裁判所
 
結果は、一審敗訴になりました。敗訴の原因は、1つは、肖像が撮影され記録されているということまでは立証できなかったことだと思います。しかし、判決文の中に「今後Nが増えて網の目のように張り巡らされ、人々の行動を撮影するならば、それは人権侵害の可能性を帯びたものだ」、という一文があった。これは、将来につながっていく一言ではなかったかと思います。
 次に控訴審では、憲法学者の協力を得て、憲法に照らして、本人に無断で肖像が撮影されていることは非常に大きな問題である、という意見書を書いてもらって提出しました。
 裁判長は、HIV訴訟で和解勧告をだした魚住裁判官で、一定の憲法判断を書いてくれるのではないかと期待したのですけれども、ふれていただけませんでした。敗訴でした。
 最高裁に上告しました。判決まで3年近くかかった。あまりにかかるものだから、勝つにしろ負けるにしろ憲法について踏み込んだ判決をしてくれるのではないかと期待したのですが、結果は、「上告理由にあたらない」という三行半の判決で終わってしまいました。

 Nは監視カメラ増殖の露払い役
 
今、このNシステム訴訟をふり返って思うことは、Nは、こんにち広範に設置されている監視カメラの露払い・お先棒担ぎの役割を果たしてきたと思います。そして現時点すでに、N自体が縦横に張り巡らされた監視カメラのネットワークと警察を介して連動することで、巨大な国民監視ネットワークが構築されているのではないかと思っています。
 「防犯カメラ」という用語はたいへん欺瞞的な言い方です。監視カメラをいくら設置しても、犯罪防止にはならない。ところが非常に言葉巧みに、「安全かプライバシーか」というあたかも二者択一であるかのような詭弁が使われ、「安全のためにはいっさい口を出してはいけない。批判をする者は後ろめたいことがある奴か安全なんかどうでもいい奴だ」、といわんばかりの論調でカメラの増殖が進んできている。この事態に、非常に危機感を覚えます。

  討論

 Nの情報開示は?
 
【今井亮一さん(交通ジャーナリスト)】警視庁に対して、私の車について持っているNの情報を開示してくれ、という請求を行いましたところ、非開示となりました。
 【櫻井さん】私は訴訟を起こす前に個人情報保護法にもとづいて情報開示を請求したのですが、1ヶ月ほったらかされて、口頭で「犯罪捜査のために秘匿する必要があるから出せない」、といわれました。

 Nの目的は?
 
【田島泰彦教授】Nの目的として押しだされているのは盗難車輌の追跡ですか?
 【櫻井さん】そうです。盗難対策と車を使った重大事件の犯人検挙の2つが目的だと言っています。最初は盗難盗難といっていたが、さっぱり成績が上がらない。そこで「オウム事件」などの重大事件をかませて市民の不安をあおることによって、Nを拡大してきました。
 【田島さん】犯罪予防という行政警察の役目よりも、司法警察のための機能を果たしているように思う。
 【櫻井さん】監視カメラに関しては、イギリスがよく引き合いに出される。IRA対策や、治安・テロ対策という明白な公安目的で設置されているが、効果はあまり上がっていません。
 【斎藤貴男さん】イギリスにおける監視カメラの拡大は、最初、ロンドンの爆弾事件がきっかけだったようですが、同国内務省の委託研究・調査の結果、車輌泥棒以外は効果がない、という結論になっている。前田雅英(都立大学教授)という法律の学者さんは、「外国の話は意味がない、ここは日本だ」と言って、歌舞伎町などのカメラに効果があるかのような「論文」を発表している。しかし、データにもとづかない危機あおりです。

 監視カメラ規制――司法の可能性
 
【田島さん】犯罪防止の可能性がほとんどないのに撮り続けている、この点について、法廷での議論は?
 
【櫻井さん】議論にならない。むこうは「ちゃんとやっている」と言えばいいわけで、立証もなし。それで通ってしまう。
 【武藤糾明弁護士】「撮影中」表示の有無、撮られる側の承諾もないということは争っていないのですか?
 【櫻井さん】表示をすればまだしもという主張はしていません。無差別に撮り続けること自体が人権侵害だという論点です。
 【武藤さん】刑事裁判で国からNの生のデータを証拠として出してきたことはありますか?
 【櫻井さん】警察はNの生の情報は決して出さない。見ると、どのように保存しているかわかってしまうからでしょうね。
 【飯島】被告側にかかわるような証拠調べはやりましたか?
 【櫻井さん】「ちゃんとやっています」という程度の主張で、それ以上の主張を裁判所が求めない、ましてや立証においてをやです。人権にかかわる重要な問題ならば、きっちり反証させるべきだ、と私は思うのですが。残念なことに、多くの裁判官がそういう見識を持っていません。


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