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●論点2「録画された画像の不適正利用が問題なのであって、画像が取得されること自体はたいした問題ではなか?
「個人は自分自身の情報に関する主権者です。OECD8原則、EU指令の考え方からしても『個人が識別可能な画像の収集は、必要性なく、また同意なく取得されることはそれ自体で直ちに違法となる』はずです。日本でも、京都府学連事件判決以降、『無前提に画像が取得されることについては、違法』としているはずです」
●論点3「監視カメラを設置する権利・利益は、憲法上の人権あるいは市民的自由としてそれ自体保護に値する」か?
「他人の肖像権、プライバシー権と常に衝突する点からして、憲法上保護すべき権利とはいえない。『プライバシーを侵害しながら監視カメラを設置する自由』は認められない。公道上においては、必要性のない監視カメラの設置を禁止し、『監視カメラ設置権を否定』することによってしか、個人の肖像権、プライバシー権を保護することはできない」
●論点4「防犯効果はある」か?
「400万台の監視カメラを設置したイギリスで出された同国内務省の報告でも、防犯効果は十分確認できない。日本でも、監視カメラの有用性としては、防犯効果は確認されていない」
●論点5「表示さえすれば、同意があるとみなしてよい」か?
「表示するだけでは、撮影されることが嫌な人の同意を得たとみなすことはできません。嫌な人はそこを通らなければよいという見解もありうるが、ある地域や商店街全体を通らせないという権限が地域や商店街にあるのか否かが問題となる。自由に通行できる領域を、排他的に使用させないのは背理です」
▼九弁連が提示した条例案
武藤さんは、条例案の趣旨を、「基本的には、監視カメラ設置者側の権限の有無と、対立する具体的な利益の存否、程度に応じた規制が必要である」、「商店街等公共の場所における監視カメラの設置、無差別撮影が当然視されないよう、国民的議論がおこなわれることを目的としている」と説明しました。
条例案の内容は次のようになっています。
(1)以下の四つの類型ごとに、それぞれにおける「設置制限」を明確にする。@「公道など公共の場所では、原則として監視カメラの設置は禁止」、A「公共施設においては、原則として公道などに準じるが、営業時間外にかぎり出入り口等に設置することは許される」、B「店舗等の民間の施設においては、重大犯罪である強盗罪発生の相当程度の蓋然性のあるATMやレジ等には設置は認められてもよいが、その他は公共施設に準じる」、C「マンション等においては同意しない賃借人や来訪者の肖像権保護のために共用施設への設置は慎重におこなう」
(2)設置されたカメラの運用基準を厳格に定める。(「表示を行う、管理外・目的外の区域撮影の禁止、目的外利用・提供の禁止、被撮影者からの開示請求に応じる」など)
(3)「許可手続きに関与する機関として、また苦情処理機関として、第三者機関(防犯カメラ審議会)を設置する」
▼討論
斎藤貴男さん(ジャーナリスト) 監視カメラについては、防犯目的とか捜査の利便性がいわれるが、監視カメラの設置によって「犯罪やテロ」はなくならない。対症療法にすぎない。その効果も疑問だ。「犯罪」には原因がある。例えば大国・先進国の暴虐に対するテロであったり、差別や貧困に苦しんだ人が世の中を恨んでとか。本当は、原因をなくすことが先決です。条例をつくるのであれば、こういうことを前文や目的として謳わないと、たんに監視カメラを認めるだけのことになりかねないと思う。
田島泰彦さん(上智大学教授) そもそも設置するかどうかという前提の議論をすることが大事。そのためにはまず情報公開(運用方法やカメラの性能など)が必要だ。
武藤さん 前文をつけるというのは大事ですね。また、「いつ被害にあうか分からないから」というような極めて抽象的な希薄な不安感をもって、通行する人の肖像権やプライバシー権を侵害することは許されないと考えています。
田島さん 撮影と収集とはちがう。肖像権・プライバシー権の侵害というのは撮影したこと自体で生じるといえる。
斎藤さん それと、デジタル化や顔認識技術とかのハイテクノロジーにたいしてどのように考えるかを検討してほしい。顔認識システムが実用化されると、国民総背番号制とも連動して個人識別も含めて個人情報が全部監視する側につつぬけになる。
上原公子さん(国立市長) 安全・安心まちづくり条例の制定が求められている。国立市では、防犯カメラ・監視カメラの設置について、どういう条例にすべきかと考えている。必要な規制は明確にするような形で条例を考えたほうがよいと思う。条例案の中の設置責任者の問題と審議会の権限の問題について、審議会というひとつの諮問機関にどのような権限をもたせるか検討する必要がある。
渡辺千古さん(弁護士) 駅、交通機関の構内にも監視カメラがかなり設置されている。「監視社会を拒否する会」の調査によれば、まったく基準もなく無差別に撮っているとのことです。
武藤さん 駅構内は公共の場所なのかという議論はある。また、ある商店街の道路は私道だから公共空間ではないという人もいる。ドイツでは一般人が自由に通行できるかどうかが唯一の基準であって、そこの所有者が誰かというのは問わない。やはり、駅構内も公共の場所に入れていいと思う。
清水雅彦さん(明治大学講師) 市町村がつくる条例で国や都道府県が設置するカメラを規制できるのでしょうか?
田島さん 実効性はともかくとして、自治体住民の権利を守るために国や都道府県のカメラも規制の対象にすべきだと思う。
(註)京都府学連事件判決 「憲法十三条は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしにみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有する」(1969年12月24日最高裁判決)
◆コンビニ「防犯カメラ」訴訟判決の問題点◆
西澤圭助さん
〔事件の概要――ホテルのチェックインをペンネームでおこなったことを理由にして逮捕された組合活動家が、当該ホテルのそばのコンビニで買い物をした際に監視カメラに写されていて、この映像記録が「捜査用」として警察に提供されていた。店主は、警察に事件と店との関係について尋ねることもせず、また顧客である当人に何の断りもせずに警察にいわれるままに録画テープを提供していた。いわゆる別件逮捕の類だったことから不起訴となった後に、活動家の男性が、当該コンビニにたいして、自分の映像を自分に無断で警察に提供したことはプライバシー侵害だとして損害賠償を求めた事件。〕
西澤さんは、はじめに、「『防犯カメラ』によって店に入る顧客の容ぼうや行動というセンシティブ情報を含むプライバシー情報が無差別に撮影・録画されたうえ、録画テープがいともたやすく警察に提供された」、「『防犯カメラ』によるプライバシー侵害の危険性が具体的にあらわになっただけでなく、『防犯カメラ』が警察による情報収集のために利用され、警察の監視カメラとしての機能を果たしたことが明らかとなった」と本事件の特質を明らかにしました。「ところが、名古屋地裁が下した判決は、これらの問題に対して正面から向き合って判断したとは全くいえない」として、以下の6点にわたって判決の問題点を提起しました。
@違法性の判断基準が、「顧客のプライバシー権をいかに守るかという発想ではない」、「プライバシー権を侵害する行為は、違法性が阻却されない限り違法であるという判断枠組み(早稲田大学江沢民講演会名簿提供事件の2003年9月12日最高裁判決)とは、全く逆転している」
Aコンビニ店内における顧客のプライバシーについて、「コンビニでは、アダルト雑誌、生理用品、避妊器具等も販売されており、これらを購入する客の行動は、他人に知られたくないという度合いが高いセンシティブ情報である。判決は、店内における顧客の行動等を撮影・録画することがいかなるプライバシー侵害を引き起こすかということに対する考察が欠如している」
Bコンビニという場の性格について、「『私人の財産権、管理権の下におかれる場』として『経営者の広範な裁量権』を認めているが、一面的である」、「コンビニは、食品・雑貨の販売、宅配便の取次、公共料金支払いの受付、ATMの設置、など社会生活上不可欠といってもよい場となっており、一種の公共空間という性格も有している」
C金融機関の「防犯カメラ」との対比について、「金融機関の『防犯目的』(強盗などの重大犯罪が起こる蓋然性の存在)とコンビニのそれ(主として万引き防止)との相違にまったく触れず、コンビニにおいて『万引きおよび強盗等』の犯罪に対処する目的で録画することを安易に認めた」
D録画テープの保管等に関する基準について、「このコンビニは、保管・利用・第三者に対する提供等について何らの基準も設けていなかったにもかかわらず、判決は不問に付した」
E警察に対する録画テープの提供について、「録画したテープを、外部に提供することは違法であるという観点が欠如している」、「具体性の欠如した『犯罪捜査のため』という理由だけでは違法性は阻却されない。警察が『犯罪の捜査のため』といえば録画テープを提供してよいとなると、あらゆる『防犯カメラ』は警察の監視カメラと化す」、「警察への録画テープの提供が目的外利用となるか否かの店主の確認義務を不問に付している」
▼討論
上原さん 外部の警察に渡したことを問題だとするだけではなく、録画したことも問題としているが、小経営の店が犯罪から自己の営業を守るためにカメラを必要とするという権利は認め、そのうえで「責任は重い」と規定するべきではないのか?
田島さん この裁判で原告は、犯罪を犯すかも知れない人は圧倒的に少数なのに、店内のすべての人を常時撮影し録画までしていること、それ自体がおかしいと主張している。このような原則的な議論が必要である。犯罪を犯した人がたまたま写っていたから録画も許されるという理屈を認めてはいけない。
武藤さん 必要性がないなら録画してはいけないという大前提をどれだけ深めるかが重要です。コンビニの場合、誰でも自由に入れる場所を24時間無差別に撮影するのだからプライバシー侵害の程度も大きい。
田島さん その店でたまたま犯罪がおこったとしても、録画していたこと自体が問題となるのに、今回は店内の犯罪とは無関係な捜査であるにもかかわらず録画テープを警察に提供した行為だから、二重におかしい。どうしてそんなことが正当化できるのか。防犯、犯罪予防というのは行政目的です。これを安易に認めてはいけない。
清水さん コンビニを公共空間だとするのは疑問だ。民間人が経営する店舗だから、防犯対策などは店主の自由裁量であるべきなのに、現実には、警察庁がコンビニについての防犯規定をつくって指導している。あるいは、コンビニ店に防犯対策を義務づけるために生活安全条例をつくってカメラ設置を強制しようという動きがある。民間にたいする行政・警察の指導を問題にすることも必要だと思う。
田島さん 公と私という区別はきちんとしたほうがいいが、実際に果たしている役割に着目して、仮に私的な監視カメラでもどういう機能を果たしているかということを問題にするのは大事だと思う。形式的な設置主体の区別だけで割り切ると大事な部分を規制できなくなってしまう。
武藤さん 店舗だから店主に広範な裁量権があるというのはおかしい。ドイツでは、撮られる人のプライバシーの利益と反対利益を対等に比較し比例原則違反はだめだとしている。
西澤さん 公共空間だというだけだと弱いかなという気がする。判決には、撮影される人の側の利益を具体的にどう考慮するかというのが一貫してない。これが問題だ。
浜島望さん(一矢の会) 防犯カメラに客がどのように撮られるのかを見せてもらったことがあるが、実際立ち読みしている本の中味までハッキリ見える。あれを見ると、やっぱり撮影されるのは嫌だなと実感する。
永見寿実さん(弁護士) 京都府学連事件で、相手は公権力ですが、撮影は原則許されないという最高裁判決がだされている。これが私人間にも適用されるというのが高裁の判例にもある。その意味では、コンビニでも商店でも、撮影は原則として一定の要件のもとでのみ限定して許されるというのが前提です。また、たとえ一定の要件のもとで、撮影・録画が許されるとしても、それを警察に提供する時には、さらに厳格な要件が必要となる。早大名簿裁判の判決で、たとえ警察の警備目的による必要ということがあっても本人の許可なしでの警察への名簿提供は許されないという最高裁判決が出されている。
上原さん やはり、目的外に利用することは認められていないわけですから、この点で店の責任は重いということをはっきりさせるべきだと思います。
武藤さん 監視カメラ賛成派の人でも、どう利用されるかわからないという点は問題だ、とする人が大多数です。
田島さん 目的外利用は重大な権利侵害を引き起こします。しかし、目的外利用だけが問題なのではなく、見ただけ・撮っただけ、それ自体でプライバシー権・肖像権の侵害なのだということをおさえておかないといけない。目的外利用による侵害性はさらに別個の権利侵害です。プライバシー権・肖像権の侵害というのは撮影しただけでも問題になるのです。
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