5.無関心が招く国民監視

街にひそむ“目”

国会周辺に設けられた監視カメラ=東京・永田町で

 イラク邦人人質事件で揺れた四月、国会前に人質の高遠菜穂子さんを支援する市民グループのメンバーら約百人が集っていた。周囲には、公安当局者約十人がメモを取りながら鋭い視線を向ける。だが、その様子を黙って見つめるもう一つの「目」に気付いている人は少なかった。

 国会の周りには四十三台の監視カメラが設置されている。警備担当者が二十四時間態勢でモニタリングし、七日間分を録画保存している。

 監視カメラの設置前に国会で論議された痕跡はうかがえない。衆参両院とも委員会の懇談会や理事会で事務局が説明したというが、議事録はない。運用規則も衆院が設置から三年近くたってことし四月に定められ、参院はいまだ策定準備中だという。

 参院の警備担当者に監視カメラの効用を聞くと、「例えば、正門に誰がいるかとかがすぐ分かる…」と言いかけ、「あっ、これは言ってはいけないか」と慌てて口をつぐんだ。

 監視カメラは国会だけでなく、首相官邸、最高裁判所にも既に配備済みだ。官邸も最高裁も保安上の問題を理由に一切詳細を明かさない。国民が監視すべき「対象」が、国民を監視する。こんな逆立ちした現実が既にある。

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 百六の東京都営地下鉄全駅には、計二千四百六十三台の監視カメラが設置され、うち六百二十二台は録画されている。駅職員は「録画映像を私たちが利用したことはない」と話す。利用しているのは警察だ。昨年十月からの半年間に二十回、閲覧要請があったという。

 JR東日本は全管内で四千五百台あると説明するのみ。詳しい話は「防犯上支障がある」。都交通局のように運用ルールを定めていないといい、警察など第三者への映像提供の実態は不明だ。

 「監視カメラ? 客も店も、ここの住人はそんなもの気にしていない」。東京・歌舞伎町で酔客相手に花を売る店主は言った。二〇〇二年二月、治安対策の切り札として、五十台が鳴り物入りで設置されてから二年以上がすぎた。

 警視庁生活安全部のまとめによると、設置後も犯罪の認知件数は増え続けている。担当者は「検挙につながっているが、抑止効果は不十分」と認める。

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 「ざっとの試算で一年で百万台設置されている。カメラの耐用年数は三年から五年。国内に数百万台あるのは間違いない」。日本防犯設備協会の担当者は説明する。

 監視カメラ先進国の英国は全土に二百五十万台が配置され、「街に出れば一日百回カメラに写る」とも言われる。日本も既に英国並みと言っても過言ではないという。

 全国で初めて「防犯カメラの設置及び利用に関する条例」を七月一日から施行する東京都杉並区が区民を対象にした調査では、95%の区民が監視カメラが必要と考えており、撮影されている不安感を訴える人は35%だけ。監視カメラへの拒絶反応はみられない。

 「監視カメラ社会」の著書がある江下雅之・目白大助教授は指摘する。

 「カメラは犯罪者だけを撮ると思い込んでいる。自分もしっかり撮られているという想像力が働かず、あまりに無関心。国民が緊張感を持たない限り、監視システムは拡大する。政治も同じ。選挙の時こそ国民が監視する番だ」

  =おわり

 (この企画は吉枝道生、市川隆太、瀬口晴義、西田義洋、佐藤直子、加藤寛太が担当しました)

(2004年6月18日)



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